2018年11月24日

梅核気に半夏厚朴湯

今回は「梅核気(ばいかくき)」がテーマですが、私も知らず知らずのうちに梅核気の状態になっていたことがあります。

梅核気の症状に用いる煎じ薬を味見してみたところ、いつもの喉の調子と違う・・・なんだかスッキリした・・・なんだこれは?

と思って、師匠にお伺い。

まぁ、「梅核気」だろうとのこと。

梅核気に限らず、不調に慣れてしまってその状態が当たり前になると、不調がとれて初めて自分にそんなものがあったと気づく。

意外に多いんですよ。

さて、今週もリビング新聞の漢方よもやま話の更新です(30/11/24号)

209958.jpg

紅葉が見頃を迎え、すっかり冬支度をする季節になりました。

中には風邪をひいて、のどに痛みや違和感を感じる人も多いでしょう。

しかし、病気がなくても、ストレスなどの精神的負担によって、のどに違和感を感じる人もいます。

漢方では、そのような状態のことを「梅核気(ばいかくき)」といいます。

実際には何も引っ掛かっていないのに、まるで梅の種がのどにつかえているような状態をいい、あぶった肉がのどに張り付いているようだ、という意味から古典では「咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)」と表現されることも。

また、西洋医学の言葉では「ヒステリー球」「咽喉頭異常感症」などと呼ばれます。

梅核気の症状に昔からよく使われてきたのが、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)です。

「金匱要略(きんきようりゃく)」という古い医学書に載る薬で「婦人が咽(のど)の中に炙(あぶ)った肉が引っかかったように感じる場合は半夏厚朴湯が良い」と記されています。 

半夏厚朴湯は、主薬の半夏(はんげ)と厚朴(こうぼく)を中心に、茯苓(ぶくりょう)、蘇葉(そよう)、生姜(しょうきょう)で構成しています。

半夏、茯苓は心中、胃内の停水を去り、厚朴、紫蘇は気の滞りを改善すると考えられています。

梅核気には半夏厚朴湯以外にも、体質や症状に応じていろいろな処方が使われます。

専門家によく相談して上手に漢方薬を利用しましょう。

(北山 恵理)

posted by なつめ at 00:00| リビング新聞−よもやま話−

2018年11月17日

認知症に人参養栄湯がよいのですか

残念ながら、マスメディアの伝え方によって漢方が誤解されてしまうことは少なくありません。

時間内に奥深い漢方を誤解なく正確に伝えることは非常に難しいことかと思います。

しかし、漢方の世界は理論通りに物事が進まないことも少なくありません。

これは漢方以外の世界でも言えることだと思いますが、そんな難しさも一緒に伝えていってくれればよいのにな、といつも思ってしまいます。

いろんな一面を知ってこそ、情報として受け取る側にとっては価値のあるものなのではないでしょうか。

今週のリビング新聞の漢方Q&A(2018/11/17号)の更新です。

はかせA.jpg

Q.認知症に人参養栄湯がよいのですか?

 最近、テレビの健康番組で見たのですが、漢方薬の人参養栄湯(にんじんようえいとう)がアルツハイマー型認知症に効くと紹介されていました。効くのなら母に試してみたいと思いますが、大丈夫でしょうか。(52歳、男性)

A.認知症によいのですが、処方選びを慎重に

 人参養栄湯は、「和剤局方(わざいきょくほう」という中国の古い処方集に載っています。

 芍薬(しゃくやく)、当帰(とうき)、桂枝(けいし)、甘草(かんぞう)、陳皮(ちんぴ)、人参(にんじん)、白朮(びゃくじゅつ)、黄耆(おうぎ)、熟地黄(じゅくじおう)、五味子(ごみし)、茯苓(ぶくりょう)、遠志(おんじ)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)―という14種類の生薬(しょうやく)で作られており、よく体を補う漢方薬の一つです。

 テレビの放送では、ある医師がアルツハイマー型認知症の患者さんに人参養栄湯を飲ますことによって、食事の量が増え、認知機能の改善傾向がみられることが分かったとのことです。

 さて、以前からマスメディアで取り上げられた漢方薬の効果が世間でもてはやされることがしばしばありましたが、それらのほとんどは、漢方の専門家なら誰でも知っている常識なのです。

 認知症についても、人参養栄湯を含めて、心身を補う漢方薬の多くに、程度の差こそあれ、認知症を改善する効果はあるものです。

 それらの中でたまたま人参養栄湯の効果が統計的に確かめられただけであり、人参養栄湯が認知症に特に効果があるということではありません。

 このことは認知症の改善に限らず、さまざまな目的に使われる漢方薬も、それぞれに多数あり、病人の体質・症状など全身状態に適するオーダーメイドの漢方薬を選用することで最も効果が出やすくなるのです。

 個人に対するオーダーメイドの漢方薬を、万人向けのレディーメイドとして扱うことができるかどうか、西洋医学の立場から研究することは貴重です。遠い将来には漢方薬の効果の不思議が解明されるかもしれません。

 しかし、今の段階で研究の過程の一つ一つにこだわりすぎると、漢方全体の実力が見えなくなります。

 漢方は経験を積み重ねることで発達した医学です。数千年という長い時を経て多くの漢方薬が試行錯誤され、よりよい漢方薬とその使い方が工夫されてきました。

 料理人が腕をふるって作ったおいしい料理も、食べる人の好みに合わなければいけません。同様に漢方薬も、飲む人の状態に適したものを選ぶことが大切です。

 そのテレビ放送でも、「その人に合った処方を選ぶのは非常に難しい」との発言もありました。

 今はまだ、経験に基づいた漢方という医学の方法論で漢方薬を選ぶことが、漢方の効果を引き出す近道でしょう。

(北山進三)
posted by なつめ at 00:00| リビング新聞−漢方Q&A−

2018年11月03日

漢方薬の価格の相場は?

毎日飲む薬なので、価格を無視することはできません。

しかし、手間をかけるのが面倒、何よりも効果が欲しい、価格を重視、費用対効果を優先させる・・・価値観は人によって様々です。

その価値観や自分の目的に合った剤型を専門家と相談しながら、しっかり納得して試しましょう。

今週もリビング新聞(岡山)の「ここが知りたい漢方」の更新です(30/11/3号)

漢方薬の剤型(煎薬、顆粒剤、錠剤)A.jpg

漢方薬の剤型にはいろいろな種類があり、効果も価格もそれぞれ異なります。

毎日飲む薬のことなので価格が気になる人も多く、漢方薬の価格はよく尋ねられる項目の一つです。

今回は、寿元堂薬局での漢方薬の1日分のおおよその価格を紹介します。

これはほぼ全国的に通用する漢方薬の相場と考えてもよいでしょう。

最も手軽で漢方薬の味やにおいが苦手な人でも飲みやすい「錠剤」は、多くの場合、約2週間分の薬が入った1箱単位となっています。

1箱3500〜5000円程度のものが多く、1日分が200〜400円です。

味やにおいにあまり抵抗がないという人に適した「顆粒( かりゅう)」は1日分が300〜500円程度。
 
「煎じ薬」は1日分が600〜800円程度です。

煎じ薬は漢方薬本来の形で、品質の良い生薬(しょうやく)を用いれば、効果を最も良く引き出せます。

価格の数字だけ見れば高価に感じる人も多いかもしれませんが、以前から、漢方の煎じ薬の相場は駅弁1食分〞ともいわれてきました。

原料の生薬の値上がりが続いている現在、この煎じ薬の価格は高価とはいえないでしょう。

また、煎じ薬を煎じるときのにおいや手間を負担に感じる人がいます。

そんなときに便利なのがアルミパック。

これは、専用の装置を使って煎じ薬を作り、1回服用分ごとにアルミパックに詰めたものです(薬代とは別に手数料が必要)。

アルミパックの煎じ薬は、手間がかからないだけでなく、数カ月の長期保存も可能です。忙しい人や、旅行に煎じ薬を持って行きたい人などに重宝されます。

その人の生活スタイルに合った薬の剤型を選んで、漢方薬の形を選べばよいでしょう。

しかし、漢方専門薬局の立場から見ると、剤型による効果の限界を感じる場合も少なくありません。

手軽なもので思うような効果が得られず、剤型にこだわりがない場合は、煎じ薬を試してみてもよいでしょう。

漢方薬は専門家に相談しながら上手に利用しましょう。

(北山 恵理)