2018年12月27日

疲労に用いられる漢方薬

あっという間に1年が終わりをむかえようとしています。

毎年、1年の終わりに「ここのお屠蘇が美味しい」とお屠蘇を買いに来られる方がいらっしゃいます。

新しい1年を迎える朝に寿元堂のお屠蘇を選んでくださるのは嬉しいことです。

今年も本当にあと少し。

心せわしい年の暮れですが、皆様ご自愛ください。

さて、今年最後のリビング新聞の漢方よもやま話の更新です(30/12/27号)

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複雑な現代社会では、さまざまなストレスのためか疲労を訴える人が増えています。

しかし、身体的な検査の異常を重視してきた西洋医学では、疲労には積極的に対応されていないのが現状です。

一方、漢方ではすべての体調不良の改善を目的としてきた歴史があります。

疲れやすい人や過労のために体調が良くない状態を、漢方では虚証の人とか虚の状態であるとして、身体を補う工夫を重ねてきました。

気力も体力も衰えてしまった時に用いることが多い十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)は、貧血傾向で食欲がなく、乾燥肌の傾向がある人に適することが多い薬です。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は気を益する補剤です。

胃を整え、身体の弱い人の疲れを癒やし、体力増強剤として虚弱体質の改善によく使われます。

小建中湯(しょうけんちゅうとう)は普段から身体が虚弱で疲労しやすい人に適することが多い薬です。

全身の疲労倦怠(けんたい)感、腹痛、動悸(どうき)、寝汗、手足のほてりなどの症状を目標に用いられます。

子どもの虚弱体質の改善などにも用いられ、応用範囲の広い漢方薬です。 

ほかにも、疲労に用いられる漢方薬は多くありますが、疲労は慢性になる前に十分な休養を取ることが何より大切です。

それでも休めないときや、慢性的な疲労が続いているときなどは、漢方で上手に補えば楽になるでしょう。

(北山 恵理)

posted by なつめ at 17:55| リビング新聞−よもやま話−

2018年12月15日

風邪の初期、葛根湯では治らない?

先日、某朝の情報番組で「風邪をひいた時の1番の薬は寝ること」だと言っていました。

当たり前のことなのですが、ついつい理屈に振り回されてしまって、その当たり前のことを見失っていることが多くなってしまっているような気がします。

最近、知らない人はほとんどいないほど有名になった葛根湯。

なんでも万人に合うというものはありません。

特に漢方薬は飲む人の体質や飲み時が効果を左右します。

葛根湯も飲む人を選ぶことを是非知っておいてくださいね。

さて、今週のリビング新聞の漢方Q&A(2018/12/15号)の更新です。

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Q.風邪の初期、葛根湯では治らない?

 風邪を引いた時は葛根湯(かっこんとう)を飲んでいます。しかし、風邪の引き初めに葛根湯を飲んでも治らない、とテレビで放送されていましたが本当でしょうか。私の友人も「気になる」と関心を寄せています。(34歳、女性)

A.葛根湯は効きますが、使い方が大切です

 また、漢方薬についてテレビでいいかげんなことを放送したようです。

 いかにも物知りの人が質問に答える番組で、「風邪の引き初めの効果は葛根湯も総合感冒薬も変わらない」と某大学の研究結果を引用しました。

 この大学の研究は、風邪の初期に、それぞれ168人と172人に葛根湯と総合感冒薬を飲ませて比較した結果、効果に違いがみられなかったということです。

 またある医師が「葛根湯も総合感冒薬も風邪の症状を和らげるだけで、風邪を治す効果はない」と断言しました。西洋医学の感覚ではそうかもしれませんが、漢方の世界では大きな間違いです。

 実は「風邪の初期」というだけで葛根湯を飲んで効かないケースが多いことは、心ある漢方家の常識です。そればかりか、使い方が悪ければ副作用と間違えられるような不都合な作用が出ることもあるのです。

 ところが、風邪には葛根湯≠ニいうように、医療関係者を含めて多くの人が葛根湯を風邪薬と思っている現状では、葛根湯の効果はテレビの放送のような意味合いしか持ち得ないでしょう。

 しかし、漢方薬は飲む人の体質や症状などを含めた全身状態に適した薬を選んで飲むもので、病名で薬を選ぶものではありません。

 風邪の初期に使われる漢方薬も、市販されている薬だけで、葛根湯、麻黄湯(まおうとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、桂枝湯(けいしとう)、参蘇飲(じんそいん)、香蘇散(こうそさん)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)などがあります。

 これらをその人の状態に合わせて使い分ければ、漢方本来の効果が引き出しやすいのです。

 寿元堂薬局には、風邪で葛根湯を勧める状態の人が来られることは少なく、せいぜい10人のうち1人か2人。

 私自身は、風邪を引いて葛根湯を飲んだことが2度あり、どちらもよく効きました。特に大みそかの夕方に39℃を超える熱が出て、寝正月になるかと思ったときに葛根湯を煎じて飲んで、1晩できれいに風邪が治って、よいお正月を迎えたことを覚えています。

 テレビで引用された論文にも、葛根湯を漢方という医学の考え方を考慮しないで、風邪の初期という目標だけで使ったことが、結果に影響している原因の一つかも知れない、ということが書かれています。

 西洋医学には風邪を治す薬がないことは医学の常識ですが、漢方薬を上手に使えば風邪が治せるかもしれません。

 漢方薬は使い方で大きく効果が変わるのです。

(北山進三)

posted by なつめ at 00:00| リビング新聞−漢方Q&A−

2018年12月08日

複数の漢方薬を服用する場合とは

西洋医学の薬と異なり、漢方薬を服用するほとんどの場合は1種類の漢方薬で対応します。

複数の漢方薬で対応するには、きちんとした理由があるのです。

今週のリビング新聞(岡山)「ここが知りたい漢方」の更新です(30/12/8号)

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漢方の世界では、その人の症状や体質など全身の状態を考慮して漢方薬を選びます。

寿元堂薬局でも、ほとんどの場合は1種類の漢方薬で対応します。

しかし、1種類の薬では対応が難しい時に、2種類の薬を飲んでいただくことがあります。

複数の病気や症状があり、複数の漢方薬で対応せざるを得ない場合や、1種類の漢方薬で対応が難しい症状に、2種類の漢方薬を使って効果を高める場合です。

複数の生薬で構成される漢方薬は複雑で、2種類の薬を同時に服用した場合に全く別の薬になってしまう可能性があります。

そのため、通常は2種類の漢方薬を服用する際には、1種類は食前、もう1種類は食後と、別々のタイミングで服用した方がよいでしょう。

ただし、意図的に2種類の漢方薬を同時に服用することもあります。

錠剤や顆粒(かりゅう)剤などのエキス製剤は、漢方薬本来のかたちである煎じ薬と比較して、薬の種類が限られます。

体質や症状などに適した漢方薬が製剤にない場合、2種類の漢方薬を組み合わせて別の内容の漢方薬として使用することがあるのです。

皮膚が乾燥して痒(かゆ)みがひどく、患部に熱感があったり、のぼせ傾向にある人に適することの多い「温清飲(うんせいいん)」という漢方薬があります。
 
温清飲は、血行を良くし、貧血を補い婦人病でもよく用いられる「四物湯( しもつとう)」と、顔が赤く、胸や胃に熱を持ち不安の強い人に用いられることの多い「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」という2種類の漢方薬を組み合わせた処方です。

例えば、温清飲の製剤の手持ちがない場合に、四物湯と黄連解毒湯という全く異なる人に適する薬の製剤があれば、それらを同時に服用することで温清飲を試すことができるのです。

このような場合には、2種類の漢方薬を同時に服用しなくては意味がありません。

複数の漢方薬を服用する時は、漢方薬の専門家に相談しながら目的に合うように、正しく服用しましょう。

(北山 恵理)