2016年06月04日

健忘を改善する漢方薬がありますか?

6月に突入し、梅雨入りも間近。

紫陽花があちらこちらで咲き乱れていて綺麗ですね。

うちの庭の紫陽花も満開です。

さて、リビング新聞の漢方Q&Aの更新(28/6/4号)です。

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Q.健忘を改善する漢方薬がありますか?

 最近物忘れが多いことに気がつきました。健忘に漢方がよいと聞いたことはありますが、実際にはどうでしょうか。何かよい漢方薬がありますか。(78歳・男)

A.ひどいほど効果が分かりやすい

 よく物忘れすることを健忘といいますが、漢方では善忘(ぜんぼう)、喜忘(きぼう)ともいいます。健忘について江戸時代の漢方書には「忘れるほうへ健かなこと」とあり、善忘、喜忘は「みごと善(よ)く、または喜(よ)く忘れるの意」と書かれています。

 そして「健忘を含めた精神は心の病だが、その変調の原因は、瘀血(おけつ)や胎毒などさまざまなので、一人一人に適した薬を選ぶ必用がある」としています。

 また、ある書には、健忘が激しくなると「夕べに朝(あした)の事を忘れ、朝に夕べの事を忘れ、甚しき者は今言った事を直ちに忘れて同じ事を幾度も言い、今聞いた事を直ちに忘れて幾度も問い返してやまない。妻子を呼ぼうとしても名前を忘れて急に思い出せないようになる」などと書かれており、これは今の認知症の症状と思われますし、「人は老衰すれば病気がなくても多くは健忘を免れない」とあります。

 このような記載は多くの古典に残されており、さまざまな漢方処方が工夫されています。漢方では古くから健忘の改善に力を注いできたのです。

 さて、現在健忘が日常生活に不都合を生じて問題になるのは高齢者がほとんどでしょう。

 高齢者の健忘の改善に、今でも手軽に使える漢方薬の範囲では、帰脾湯(きひとう)をはじめ、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、六味丸(ろくみがん)、八味丸(はちみがん)などがあります。

 帰脾湯は、高齢によって体が弱り、疲れやすい人に用いて心身の元気を穏やかに補いながら健忘を改善します。帰脾湯が適する状態よりも元気のない人には補中益気湯、肉体が衰弱している人には十全大補湯、六味丸、八味丸が適することが多いものです。

 帰脾湯には、健忘のほかにも怔忡(せいちゅう)という症状を治す効果もあります。

 怔忡とは、胸騒ぎがして不安に感じる心理状態のことです。ある古典には、「気持ちがざわざわして落ち着かず、動悸(どうき)も打ち、びくびくする」「胸が騒いでイライラする。気分が穏やかにならない」などと書かれています。

 不安を取り除いて精神を安定させる作用がある帰脾湯は、高齢者の心の健康の維持にも役立つというわけです。

 昔は医療が今ほど普及していなかったこともあり、健忘の症状が病気だと分かるほどひどくなってから対応していたと思われますが、現代では早めの対策を考えてもよいでしょう。詳しくは専門家にご相談ください。

(北山進三)
posted by なつめ at 15:10| リビング新聞−漢方Q&A−