2019年08月24日

創業43年の「寿元堂薬局」とは?

この度「倉敷市阿知三丁目東地区市街地再開発事業」にともない、該当地区の建築物が取り壊されることになり、令和元年六月から仮店舗に移転しています。

今後約二七ヶ月の間、仮店舗にて開局いたします。

一時的とはいえ、この度の店舗移転の機会に、日本の伝統医学である漢方を継承する寿元堂薬局について少し振り返ってみたいと思います。

また、令和三年の後半に再開発ビルが完成した後には倉敷駅前付近に戻る予定ですので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

寿元堂薬局の歴史について、今週のリビング新聞の漢方Q&A(2019/8/23号)の更新です。

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Q.創業43年の「寿元堂薬局」とは?

 寿元堂薬局は、地区の再開発事業に伴い、6月から仮店舗に移転し、開局しています。移転作業のために、6月と7月の「続・陰陽虚実 漢方Q&A」を休み、今回から再開します。一時的とはいえ、店舗の移転を機会に、寿元堂薬局を改めて紹介したいと思います

A.漢方本来の価値を守り、広める拠点

●日本の伝統的な漢方∴鼡リに研さん

 寿元堂薬局は、昭和51年に漢方専門薬局として創業して以来、43年間にわたって倉敷駅前通りで開局してきました。
 今でこそ漢方薬がある程度普及していますが、開局当時は薬草や健康食品との違いさえ分からない人が多く、医療関係者のほとんどが漢方を否定していました。
 そのような時代に倉敷で唯一の本格的な漢方専門薬局を開局して以来、日本の伝統的な漢方一筋に研さんを続けています。

●生薬にまみれて品質の大切さを理解

 創業者の北山進三は、昭和48年に漢方の世界に入り、漢方卸問屋で多くの生薬(しょうやく)にまみれた毎日を送り、生薬の品質の良否をベテランの職人から教えてもらいました。
 漢方薬を扱う人のほとんどが生薬の見本などから知識を得るのとは違い、漢方薬の原料生薬の品質の大切さがよく理解できたのです。
 付属の漢方専門薬局で、大阪大学薬学部の高橋真太郎教授の愛弟子の山田実先生に漢方の手ほどきを受けました。
 漢方の応用をよく実践していた山田先生の教えで、漢方に早く馴染むことができました。
 なお、高橋先生は、猛毒のトリカブトを薬として使いやすくした「加工附子」を開発したことでも有名です。

●「医は仁術」を実践された生涯の師

 生涯の師となる柴田良治(よしはる)先生に出会うことができたのもこの頃です。
 柴田先生は、日本古来の漢方を継承する数少ない医師の一人でした。 
 柴田先生が主宰する研究会では、関西でトップクラスの先生方の飾らない知識と経験を間近に聞くことができ、流派を超えた先生方の知識を学ぶことにより、客観的に漢
方が理解できました。
 漢方の本流をくむ柴田先生は、漢方の真髄である古典から多くを学び、「古典はいつも新しい」と言われていました。創業者も漢方の知識の宝庫である古典の知識を追求し、今では古典の蔵書が500冊を超えています。
 柴田先生は、今ではほとんど死語になりつつある「医は仁術」を実践されていました。先生を師と仰ぐことができた創業者は、本当によい環境で漢方を学ぶことができたと思います。

●誤った先入観、多くの誤解が続く

 世間で多い漢方に対する誤解を解くために、寿元堂薬局では昭和60年からリビング新聞にコラムを執筆しています。
 平成元年には「黙堂柴田良治処方集」という詳しい処方集を編集しましたが、この頃は漢方を目指す人が多かったのか、当時の漢方専門書のベストセラーになりました。
 漢方薬の消費が増え続けましたが、理解しにくい漢方医学は、なかなか普及しませんでした。
 「風邪には葛根湯」などと、病名だけを参考にして漢方薬を使うことが広く行われ、「漢方の本
場は中国」という誤った先入観のためか、中国医学を漢方と間違え、健康食品やサプリメントを漢方薬と混同するなど、漢方に対する多くの誤解が長く続いています。

●漢方の伝統を守る口訣集と後継者

 「漢方って何?」と聞かれて正しく答えられる人は、今でも少ないのではないでしょうか。
 漢方と漢方薬に対する誤解を解くために、創業者は平成23年に「誤解だらけの漢方薬」を著わし
ました。漢方を必要とする人たちから漢方本来の価値を遠ざけないために、漢方を知ってもらうことが大切だからです。
 このコラムを掲載している岡山リビング新聞社が出版しましたが、本書によって漢方の常識を知って驚いた人が多いようです。
 今は漢方薬を扱う人は増えても漢方医学の継承者は減るばかりで、専門的に学べる場も非常にまれになってしまったので、次の世代に漢方を残すために、平成29年には「漢方処方・口訣集」(寿元堂薬局発行)を著わしました。漢方で重要な古典の資料の多くを一冊にまとめた処方集です。
 さて、寿元堂薬局もそろそろ世代交代を迎えています。後継者は創業者の次女の北山恵理です。
漢方専門薬局で育ったせいか、上達が早いのが楽しみです。
 今では寿元堂薬局の業務のほとんどを任せられますので、漢方の伝統を守っていくことができると確信しております。

(北山進三)

posted by なつめ at 00:00| リビング新聞−漢方Q&A−

2019年03月23日

歯槽膿漏に効く漢方薬がありますか?

口の中のお悩みは、歯医者さんでないと解決できないと思っている人も多いでしょう。

実は漢方は、歯周病や歯槽膿漏、歯根嚢胞、口内炎は得意分野です。

もちろん100%ではありませんが、結構高い確率でよくなられる方がいらっしゃいます。

そんな口の中のお悩みに用いられる漢方について、今週のリビング新聞の漢方Q&A(2019/3/9号)の更新です。

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Q.歯槽膿漏に効く漢方薬がありますか?

 数年前から歯槽膿漏(しそうのうろう)で悩んでいます。以前、歯茎が緩んで抜いた歯があり、今も別の歯を抜かないといけないと言われています。歯槽膿漏にも漢方が効くと聞いたのですが、本当でしょうか。(68歳、女性)

A.口の中の治りにくい病気に漢方を

 漢方でも口の中の病気に対応してきた長い歴史があります。西洋医学の進歩によって漢方の役割は随分減りました。しかし、歯槽膿漏や口内炎に対する効果など、役に立つ素晴らしい価値も多く残っています。

 歯槽膿漏(歯周炎)は、歯を支えている周囲の組織が悪くなる病気です。

 少しずつ進行していきますが、初期では、痛みや違和感を感じることはありません。ある程度悪くなると、歯茎(歯肉)の色が悪くなり、出血しやすくなり、歯茎が腫れて、押すと膿汁(のうじゅう)が出るようになります。そして、歯を支えている骨が破壊され、歯は抜けてしまいます。

 つまり、痛みはあまりないままに、いつの間にやら歯がぐらぐらして、ついには抜けてしまうという病気です。

 口の中にいる多くの細菌のうち十数種類が歯槽膿漏の原因となり、それらが増殖することによって歯槽膿漏が悪化しますが、個人の健康状態や歯の周りの清潔さなどに大きな影響を受けます。

 歯槽膿漏の多くは漢方薬を飲むだけで改善し、出血や膿(うみ)がなくなり、緩んだ歯茎がしっかりしてくるものです。

 私が歯槽膿漏に対する漢方の効果に驚いたのは30年ほど前です。たった数日間漢方薬を飲んでもらっただけで歯茎が引き締まって盛り上がるという信じられないケースを経験したのです。

 ほかにも、歯槽膿漏が悪化を続けて一本ずつ歯を抜いていた人が、残り2本になったときから漢方薬を飲み始め、数カ月分の薬を飲んだだけで20年以上も症状が治まったことがあります。

 1カ月もしない間に、緩んだ歯茎が締まったり、色が改善した人は少なくありません。

 歯槽膿漏の改善には漢方が役立つことが多く、効果の試しの期間は、煎じ薬なら1、2週間から1カ月、顆粒剤や錠剤なら少し長引きます。

 ではどのような漢方薬が利用されるのでしょうか。入手しやすい顆粒剤や錠剤の漢方薬を紹介します。もしこれらで効果が見えにくければ、専門家に相談して煎じ薬を試すとよいでしょう。

●黄連解毒湯(おうれんげどくとう) 
歯茎からの出血がじわじわと止まらないものに

●甘露飲(かんろいん)
口臭があったり、歯茎が腫れたり痛んだりして、ただれている状態に

●三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう) 
舌が腫れたり、歯茎からの出血が続いたりして、便秘傾向の人に

●六味丸(ろくみがん)
口臭があったり、歯茎が赤くただれたりして、足が弱り、時に口の中が塩辛く感じる状態に

(北山進三)

posted by なつめ at 00:00| リビング新聞−漢方Q&A−

2019年02月18日

自律神経失調症と肝臓は関係しますか

古代の中国の思想に五行説というものがあります。

五行説はいろいろなものと関連しており、人の体も例外ではありません。

が、五行説に出てくる五臓と、私たちの体内の臓器は全く別物です。

詳しくは、今週のリビング新聞をどうぞ。

漢方Q&A(2019/2/16号)の更新です。

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Q.自律神経失調症と肝臓は関係しますか?

 イライラして動悸(どうき)や不眠があり、自律神経失調症といわれました。ある人に肝臓が悪いからだといわれましたが、どうでしょうか。(54歳、女性)

A.五行説の肝は肝臓のことではありません

 治したい症状を相談すると、西洋医学の検査では異常がないのに、肝臓や腎臓が悪いといわれたという人がいます。あなたもその一人ですね。

 さて、古代の中国の思想に五行説というものがあります。万物を木、火、土、金、水の5つの要素に分けて、お互いに影響し合うという考え方で、政治や宗教を含めて、すべての分野に取り入れられた時代があります。

 五行説は医学にも影響を及ぼし、内臓全体のことを五臓六腑といい、五臓は肝、心、脾、肺、腎に分けられました。

 これらは、肝臓、心臓などと西洋医学で内臓の名前に使われているため誤解されやすいのですが、漢方では、体のさまざまな働きを振り分けて名前を付けたもので解剖学的な臓器のことではありません。「肝、心、脾、肺、腎」と「肝臓、心臓、脾臓、肺臓、腎臓」は同じものではないのです。

 五臓の肝は、ほぼ西洋医学の肝臓の働きに加えて精神の活動に大きく影響し、感情や自律神経の働きと関係しています。 また、人の感情は、五行では、肝、心、脾、肺、腎を、それぞれ怒、喜、思、憂、恐と関連づけて五情といいます。

 ですから、イライラして怒りっぽくなることを漢方では肝の病ということがあります。

 ちなみに、肝は疳(かん)や癇(かん)につながり、疳が強いとか、癇に障るなどといい、共に怒りやすいことですね。

 漢方には癇症という病名もあります。古くは癲癇(てんかん)のことでしたが、後に怒りっぽいことやいら立ちやすいことをはじめとして、物事が気になったり、ささいなことで悩んだりなど、感情の偏りを広く意味するようになりました。これらは解剖学の肝臓の機能とは直接関係はありませんので、検査もしないで肝臓が悪いといわれたことは気にしないでよいでしょう。

 肝と肝臓に限らず、五臓と西洋医学の臓器を混同することは避けたいものです。

 五行説と漢方の関わりですが、漢方の基になった明の時代(1368〜1662)の中国医学には五行説が取り入れられていました。

 江戸時代に中国医学が変革して日本独自の医学である漢方になっていく過程で、五行説を重視した後世派(ごせいは)よりも経験を重んじた古方派という流派が効果を上げる時代がありました。後に、両派の長所を取り入れた折衷派が漢方の主流になりましたが、五行説は以前ほど重んじられなくなりました。

 現在の漢方でも、やはり折衷派が主流ですが、経験を重んじた効果的な漢方薬の使い方に加えて、五行説の一部が活用されています。

(北山進三)

posted by なつめ at 12:02| リビング新聞−漢方Q&A−