2018年11月17日

認知症に人参養栄湯がよいのですか

残念ながら、マスメディアの伝え方によって漢方が誤解されてしまうことは少なくありません。

時間内に奥深い漢方を誤解なく正確に伝えることは非常に難しいことかと思います。

しかし、漢方の世界は理論通りに物事が進まないことも少なくありません。

これは漢方以外の世界でも言えることだと思いますが、そんな難しさも一緒に伝えていってくれればよいのにな、といつも思ってしまいます。

いろんな一面を知ってこそ、情報として受け取る側にとっては価値のあるものなのではないでしょうか。

今週のリビング新聞の漢方Q&A(2018/11/17号)の更新です。

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Q.認知症に人参養栄湯がよいのですか?

 最近、テレビの健康番組で見たのですが、漢方薬の人参養栄湯(にんじんようえいとう)がアルツハイマー型認知症に効くと紹介されていました。効くのなら母に試してみたいと思いますが、大丈夫でしょうか。(52歳、男性)

A.認知症によいのですが、処方選びを慎重に

 人参養栄湯は、「和剤局方(わざいきょくほう」という中国の古い処方集に載っています。

 芍薬(しゃくやく)、当帰(とうき)、桂枝(けいし)、甘草(かんぞう)、陳皮(ちんぴ)、人参(にんじん)、白朮(びゃくじゅつ)、黄耆(おうぎ)、熟地黄(じゅくじおう)、五味子(ごみし)、茯苓(ぶくりょう)、遠志(おんじ)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)―という14種類の生薬(しょうやく)で作られており、よく体を補う漢方薬の一つです。

 テレビの放送では、ある医師がアルツハイマー型認知症の患者さんに人参養栄湯を飲ますことによって、食事の量が増え、認知機能の改善傾向がみられることが分かったとのことです。

 さて、以前からマスメディアで取り上げられた漢方薬の効果が世間でもてはやされることがしばしばありましたが、それらのほとんどは、漢方の専門家なら誰でも知っている常識なのです。

 認知症についても、人参養栄湯を含めて、心身を補う漢方薬の多くに、程度の差こそあれ、認知症を改善する効果はあるものです。

 それらの中でたまたま人参養栄湯の効果が統計的に確かめられただけであり、人参養栄湯が認知症に特に効果があるということではありません。

 このことは認知症の改善に限らず、さまざまな目的に使われる漢方薬も、それぞれに多数あり、病人の体質・症状など全身状態に適するオーダーメイドの漢方薬を選用することで最も効果が出やすくなるのです。

 個人に対するオーダーメイドの漢方薬を、万人向けのレディーメイドとして扱うことができるかどうか、西洋医学の立場から研究することは貴重です。遠い将来には漢方薬の効果の不思議が解明されるかもしれません。

 しかし、今の段階で研究の過程の一つ一つにこだわりすぎると、漢方全体の実力が見えなくなります。

 漢方は経験を積み重ねることで発達した医学です。数千年という長い時を経て多くの漢方薬が試行錯誤され、よりよい漢方薬とその使い方が工夫されてきました。

 料理人が腕をふるって作ったおいしい料理も、食べる人の好みに合わなければいけません。同様に漢方薬も、飲む人の状態に適したものを選ぶことが大切です。

 そのテレビ放送でも、「その人に合った処方を選ぶのは非常に難しい」との発言もありました。

 今はまだ、経験に基づいた漢方という医学の方法論で漢方薬を選ぶことが、漢方の効果を引き出す近道でしょう。

(北山進三)
posted by なつめ at 00:00| リビング新聞−漢方Q&A−

2018年11月03日

漢方薬の価格の相場は?

毎日飲む薬なので、価格を無視することはできません。

しかし、手間をかけるのが面倒、何よりも効果が欲しい、価格を重視、費用対効果を優先させる・・・価値観は人によって様々です。

その価値観や自分の目的に合った剤型を専門家と相談しながら、しっかり納得して試しましょう。

今週もリビング新聞(岡山)の「ここが知りたい漢方」の更新です(30/11/3号)

漢方薬の剤型(煎薬、顆粒剤、錠剤)A.jpg

漢方薬の剤型にはいろいろな種類があり、効果も価格もそれぞれ異なります。

毎日飲む薬のことなので価格が気になる人も多く、漢方薬の価格はよく尋ねられる項目の一つです。

今回は、寿元堂薬局での漢方薬の1日分のおおよその価格を紹介します。

これはほぼ全国的に通用する漢方薬の相場と考えてもよいでしょう。

最も手軽で漢方薬の味やにおいが苦手な人でも飲みやすい「錠剤」は、多くの場合、約2週間分の薬が入った1箱単位となっています。

1箱3500〜5000円程度のものが多く、1日分が200〜400円です。

味やにおいにあまり抵抗がないという人に適した「顆粒( かりゅう)」は1日分が300〜500円程度。
 
「煎じ薬」は1日分が600〜800円程度です。

煎じ薬は漢方薬本来の形で、品質の良い生薬(しょうやく)を用いれば、効果を最も良く引き出せます。

価格の数字だけ見れば高価に感じる人も多いかもしれませんが、以前から、漢方の煎じ薬の相場は駅弁1食分〞ともいわれてきました。

原料の生薬の値上がりが続いている現在、この煎じ薬の価格は高価とはいえないでしょう。

また、煎じ薬を煎じるときのにおいや手間を負担に感じる人がいます。

そんなときに便利なのがアルミパック。

これは、専用の装置を使って煎じ薬を作り、1回服用分ごとにアルミパックに詰めたものです(薬代とは別に手数料が必要)。

アルミパックの煎じ薬は、手間がかからないだけでなく、数カ月の長期保存も可能です。忙しい人や、旅行に煎じ薬を持って行きたい人などに重宝されます。

その人の生活スタイルに合った薬の剤型を選んで、漢方薬の形を選べばよいでしょう。

しかし、漢方専門薬局の立場から見ると、剤型による効果の限界を感じる場合も少なくありません。

手軽なもので思うような効果が得られず、剤型にこだわりがない場合は、煎じ薬を試してみてもよいでしょう。

漢方薬は専門家に相談しながら上手に利用しましょう。

(北山 恵理)


2018年10月27日

冷えも影響する膀胱炎

膀胱炎は珍しくない病気ですが、実際になってみるとやっかいな病気です。

私は以前、冷え症でした。(詳しくはこちら→★★★

冷え症が辛かった時期は少し疲れたりすると膀胱炎を繰り返していましたが、現在は冷えもかなり改善し、膀胱炎は漢方薬を飲みはじめて数年の間、1度もなっていません。

膀胱炎になりやすい体質といって諦めている人の中にも、冷えを改善すれば良い方向にむかう人も意外と多いかもしれませんね。

今週は「冷えも影響する膀胱炎」について、リビング新聞の漢方よもやま話の更新です(30/10/27号)

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朝晩が冷え込むようになり、昼と夜で気温が10℃以上の差になることも珍しくありません。 
 
こんな時季に注意したいのが膀胱炎(ぼうこうえん)です。

女性に多い病気で、男性と比較して尿道が短いことが理由だといわれています。

主な症状は排尿痛と頻尿で、尿に血が混ざることもあります。

大腸菌やブドウ球菌などの細菌感染が原因で、抗生物質を使用し、水分を多く補給することで早く症状が治まります。

膀胱炎などの泌尿器の炎症によく用いられる漢方薬に猪苓湯(ちょれいとう)があります。

尿道の炎症を抑えて利尿を円滑にする薬で、排尿痛や尿利の減少、口の渇きを目標に用いられます。

猪苓湯は、膀胱炎に限らず、泌尿器疾患に広く応用される代表的な漢方薬です。

膀胱炎には漢方薬も効きますが、今は多くの人が抗生物質に頼っています。

ほとんどの場合、抗生物質を服用すればよくなりますが、抗生物質を長期間服用したため耐性菌が出現し、効果が出なくなってしまう人も。

漢方では膀胱炎は冷えも影響していると考えます。

再発を繰り返す、抗生物質の効果がない、膀胱炎で長く悩んでいるという人は、漢方薬で冷えを改善しながら様子をみてもよいでしょう。

膀胱炎を繰り返さない体にしていくためには、生活習慣や食生活なども見直し、上手に漢方薬を利用して体を整えていきましょう。

(北山 恵理)

posted by なつめ at 15:30| リビング新聞−よもやま話−